
OSPFの「エリア」とAS (自律システム) の関係性は?
AS (自律システム) とは?
まず、AS (Autonomous System) は、同じ管理ポリシーで運用されるネットワークのまとまりです。例えば、ある企業やISPが一元的に管理しているネットワーク全体がASになります。インターネット上のAS同士はBGP (Border Gateway Protocol) を使ってルーティングします。
例:
- ISP Aのネットワーク → AS65001
- ISP Bのネットワーク → AS65002
- ある企業ネットワーク → AS65003
AS間の通信は基本的にBGPで行います。これは「インターネット全体で、どのASにどのネットワークがあるか」を教え合う仕組みです。
OSPFのエリアとは?
OSPFはASの「内部」で使うプロトコル (IGP: Interior Gateway Protocol) です。そして、OSPFはスケールしやすくするために、1つのAS内のネットワークを「エリア」に分割します。
🔑 イメージ:
- AS (自律システム) → 企業やISP全体
- エリア (OSPF内の区画) → 企業の支社・部門ごとのネットワーク
なぜエリアに分けるのか?
OSPFは全ルータがネットワーク全体の状態を持つ「リンクステート型」なので、ネットワーク規模が大きくなると制御トラフィックや計算量が膨大になります。これを防ぐために、ネットワークをエリアごとに分割します。
- エリア0 (バックボーンエリア):すべてのエリアをつなぐ中核エリア
- エリア1, エリア2… (通常エリア):部門・支店ごとのネットワーク
各エリアの中では、自分のエリア内だけのトポロジー情報を保持し、他のエリアとは要約されたルート情報 (LSA Type 3) をやり取りします。これにより、ネットワーク規模が大きくても効率的に動作します。
具体的なイメージ
例えば、全国に支店がある企業を考えましょう。
- 本社 (東京):エリア0 (バックボーン)
- 大阪支社:エリア1
- 名古屋支社:エリア2
この場合、企業全体は1つのASで、OSPFを使ってAS内のルーティングを行います。でも、支店ごとにネットワーク規模が大きくなりすぎるので、それぞれをエリアに分けます。
- 本社ルータ (エリア0) が各支社と接続
- 支社内のルータはエリア1やエリア2の中でルート計算
- 支社間の通信は一度エリア0を経由して行う (エリア間通信)

OSPFはフルメッシュ型。でもすべてのルータはエリア0を経由する..これって矛盾じゃない?
結論からいうと、「OSPFがフルメッシュになるのはエリア内だけ」で、エリア間の通信はエリア0をハブにする、という構造になっています。ここをちゃんと整理しましょう!
1. エリア内はフルメッシュ
OSPFはリンクステート型プロトコルなので、同じエリア内のルータ同士は「LSA (Link-State Advertisement)」を使って全ルータの状態を共有します。これは フルメッシュ的 な状態になります。
🔧 具体例:エリア1にR3、R4、R5がいた場合
- R3 ↔ R4 ↔ R5 だけでなく
- R3 ↔ R5 も直接トポロジー情報を持つ
つまり、エリア内では各ルータが全体のネットワーク構成を完全に知っているので、結果的にフルメッシュのような動きになります。
2. エリア間はエリア0がハブになる
エリアを分割すると、エリア同士の通信は直接やり取りするのではなく、必ずエリア0 (バックボーンエリア) を経由します。
これは設計上のルールであり、「エリア0を中継しなければルートが伝播しない」という制限を意図的に設けているんです。
🔧 具体例:
- エリア1 (R3, R4) ↔ エリア0 (R2) ↔ エリア2 (R6, R7)
この場合、エリア1のネットワーク情報は一度エリア0に集約され、エリア2に配信されます。逆も同じです。

エリア内のすべてのルータはエリア0とつながるの?
結論から言うと:
- エリア内のすべてのルータがエリア0と直接つながるわけではありません。
- 各エリアに「代表的なルータ (ABR: Area Border Router)」がいて、そのルータがエリア0と中継します。
これをもう少し具体的に説明しますね!
エリアボーダールータ (ABR) の役割
ABR (Area Border Router) は、複数のエリアに接続されているルータ のことで、エリア0と通常エリアをつなぐ役割を担います。
🔧 具体例:
- R1:エリア0のみ
- R2 (ABR):エリア0とエリア1の両方にインターフェースを持つ
- R3, R4:エリア1のみ
この場合、R3やR4はエリア0と直接つながっていません。代わりに、R2 (ABR) がエリア1の情報をエリア0に広報し、逆にエリア0の情報をエリア1に伝えます。
ルートの流れ
例えば、R3がエリア2のネットワークにアクセスしたい場合:
- R3はルート情報をR2 (ABR) に送信
- R2はエリア0にルートを広報
- エリア0内のルータがルートを受け取り、エリア2のABR (例えばR6) に伝達
- R6がエリア2内のルータにルートを配布
つまり、エリア0がバックボーンとして全エリアをつなぎ、各エリアはABRを通じてエリア0とつながっています。
なぜABR方式にするのか?
もし全ルータがエリア0と直接つながる設計だと、ルータの数が増えるたびにリンク数も爆発的に増えてしまいます。ABR方式なら:
- リンク数削減:エリアごとに1つまたは数台のルータだけがエリア0と接続
- スケーラビリティ:エリア内の変化がエリア0に直接影響しない
- 障害隔離:エリア内の障害が他エリアに波及しにくい
要するに、ネットワーク全体を安定・効率的に運用できるんです!

異なるネットワークをエリアって言う。で、そのエリアの中には複数のルータがある。これって、ネットワークの中に更にネットワークがあるってこと? え?どういうこと?
前提:ネットワークとルーターの関係
まず基本的な構成をイメージしましょう。ルーターは異なるネットワークをつなぐ装置なので、ルーターが3台あるとき、それぞれのルーターが1つ以上のネットワークセグメント (サブネット) に接続している可能性があります。
🔧 具体例:ルーター3台 (R1, R2, R3) がある場合
- R1 に接続されたネットワーク → 192.168.1.0/24
- R2 に接続されたネットワーク → 192.168.2.0/24
- R3 に接続されたネットワーク → 192.168.3.0/24
そして、ルーター同士はインターフェース同士をつないで通信します。例えば、R1とR2をつなぐリンク自体も、1つのネットワーク (例えば192.168.12.0/30) です。
つまり、ルーターが複数台あるとき:
- 各ルーターのLAN側ネットワーク (社内ネットワークなど)
- ルーター間リンクのネットワーク
が存在します。
エリアとネットワークの関係
ここが混乱ポイントだと思いますが、エリアとは「ネットワークのまとまり」のことです。OSPFでは、エリア内の複数のネットワークセグメントやルーターが、1つのエリアとしてグループ化されます。
🔧 具体例:エリア1に3台のルーターがいる場合
- R1 → 192.168.1.0/24
- R2 → 192.168.2.0/24
- R3 → 192.168.3.0/24
- R1 ↔ R2 のリンク → 192.168.12.0/30
- R2 ↔ R3 のリンク → 192.168.23.0/30
これらのネットワーク全部をひっくるめて、「エリア1」とします。つまり、エリアは複数のネットワークの集まり です。
エリアの役割
エリアは「論理的な境界」で、ネットワークのまとまりを作ることで、ルーティングの負荷を軽くします。エリア内のルーターは、エリア内のすべてのネットワークを完全に把握しますが、エリア外のルートは「要約情報」だけを知ります。
例えば:
- エリア1 のネットワークは 192.168.0.0/16 として要約される
- エリア2 は 10.0.0.0/16 として要約される
その結果、ルーターは外部エリアの個々の細かいネットワーク構成を気にせず、シンプルなルート情報で通信できるようになります。
AS・エリア・ネットワークの関係のまとめ
整理するとこうなります!
- AS (自律システム) → 1つの管理ポリシーのネットワーク全体
- 例えば、ある企業全体のネットワーク
- エリア0 (バックボーンエリア) → すべてのエリアをつなぐ中心エリア
- エリア1, エリア2… → 部署ごとや支店ごとなど、複数のネットワークをまとめた単位
- 各エリアの中には、複数のルーターと複数のネットワーク が存在する
- エリア内のルーター同士はLSAを交換して、全ネットワーク情報を共有
イメージ図
AS 65001 (1つの企業のネットワーク)
├── エリア0 (バックボーン)
│ ├── 10.0.0.0/30 (ルーター間リンク)
│ └── 10.0.1.0/30 (ルーター間リンク)
├── エリア1 (東京支社)
│ ├── 192.168.1.0/24 (部署AのLAN)
│ ├── 192.168.2.0/24 (部署BのLAN)
│ └── 192.168.12.0/30 (ルーター間リンク)
└── エリア2 (大阪支社)
├── 172.16.1.0/24 (部署CのLAN)
├── 172.16.2.0/24 (部署DのLAN)
└── 172.16.12.0/30 (ルーター間リンク)
このように、エリアは「ネットワークのグループ」で、エリア内には複数のネットワークが含まれる ということなんですね!

インターネットってそもそもなに?ASとの関係は?
インターネットとは?
一言でいうと:
世界中のAS (自律システム) がBGPでつながった巨大ネットワークの集合体
つまり、インターネット自体が1つの巨大なネットワークじゃなくて、たくさんのAS同士がBGPでつながってできたネットワークの集合 なんです!
例えば:
- ISP (プロバイダ) のAS
- クラウド事業者 (AWS, Google) のAS
- 大学のAS
- 企業のAS
これらがBGPを使ってルーティング情報を交換して、お互いのネットワークにアクセスできるようにしています。
企業のネットワークはどうなってるの?
企業のネットワークを考えましょう。例えば、あなたの会社がこんな感じだとします。
🔧 企業ネットワーク (AS65001)
- 本社LAN → 192.168.1.0/24
- 支社LAN → 192.168.2.0/24
- DMZ (公開サーバ用) → 203.0.113.0/24
このままだと、企業内のネットワークは完全に閉じているので、外部と通信できません。LAN内のPC同士や支社間では通信できても、Googleにアクセスしたりメールを送ったりできない状態です。
企業がインターネットに接続する流れ
じゃあどうやってインターネットにつなぐのか?
実はシンプルで、企業は ISP (プロバイダ) と契約して、そのISPのASに接続します。
例えば:
- 企業AS (AS65001) ↔ ISPのAS (AS100) ↔ インターネット全体
このとき、企業とISPのルーターはBGPを使って経路情報を交換します。
ISPが企業のASに「インターネット全体への経路情報」を流し、企業は「自社のネットワークへの経路情報」をISPに流します。
インターネット通信の流れ
例えば、企業のPC (192.168.1.100) がGoogle (8.8.8.8) にアクセスする場合:
- PC → 企業ルーター (デフォルトゲートウェイ) にパケット送信
- 企業ルーター (AS65001) → ISPルーター (AS100) にパケット転送 (BGPでISPにルートを学習)
- ISPルーター → インターネット内の他のASにBGPでパケットをリレー
- GoogleのAS (AS15169) に到達し、8.8.8.8 にパケットが届く
逆方向も同じく、Googleからの応答パケットはBGPルーティングを通じて、ISPを経由して企業ルーターに戻ります。
AS・ISP・インターネットの関係図
(インターネット全体)
│
▼
┌────────────────┐
│ ISPのAS (AS100) │
└────────▲────────┘
│ BGP
▼
┌────────────────┐
│ 企業のAS (AS65001) │
├────────────────┤
│ 本社LAN: 192.168.1.0/24 │
│ 支社LAN: 192.168.2.0/24 │
│ DMZ: 203.0.113.0/24 │
└────────────────┘
- ISP (AS100) は、インターネットの他のASとBGPで接続
- 企業 (AS65001) は、ISPとBGP接続してインターネットにアクセス
企業がインターネットを使うには、ISPとBGPで接続し、インターネット全体のルートをISPから学ぶ ことで成立するんですね!

インターネットを使う際のISPの意義は?なぜISPを経由するのか?
ISPを経由する理由は、企業が直接インターネット全体とつながることのコストと負荷をISPが肩代わりしてくれるからなんです!順を追って詳しく説明しますね!
直接インターネットに接続する場合の課題
もし企業がISPを使わずに直接インターネットにつなごうとしたら、何が起きるでしょう?
- すべてのASのルーティング情報が必要
- インターネットはBGPというプロトコルでAS間をつないでいます。
- BGPのフルルートは90万以上の経路情報!(2024年時点で約100万経路に近いです)
- これを企業のルーターで保持すると、超ハイスペックなルーターが必要になり、コストが爆増します。
- 物理的な接続の負担
- 直接インターネットとつながるには、複数のASと直接接続する回線を契約しなければなりません。
- 海底ケーブルや大規模なバックボーン回線を敷設・維持するのは現実的ではありません。
- ルーティングの最適化が困難
- インターネット全体のルートは動的に変化します。
- これを自社でリアルタイムに最適化すると、運用負荷がとんでもなく高くなります。
要するに、直接接続すると莫大なコスト・設備・運用スキルが必要になり、普通の企業がインターネットを扱うのは現実的ではありません。
ISPの役割とは?
ここで登場するのがISP(インターネットサービスプロバイダ)です。
ISPは:
- インターネットの巨大なルーティング情報を一括管理
- 複数のASと接続し、最適な経路選択を代行
- 企業にはシンプルなゲートウェイとして接続を提供
たとえば、企業側はISPとBGPピアリングを張って、「インターネットへのデフォルトルート」だけを受け取ることで、シンプルなルーティングが可能になります。
企業側のルーティングテーブルは:
0.0.0.0/0 → ISPルーター
こうすれば、企業のルーターは「とりあえずISPに投げればいい」ので、フルルートを保持する必要がないわけです!
ISPがやってくれること
ISPは:
- インターネット全体のBGPフルルートを保持
- 他のISPやIX(インターネットエクスチェンジ)と接続し、経路を最適化
- トラフィックエンジニアリングを行い、通信遅延や障害に即対応
例えば:
- 企業A → ISP → 最適なAS経路 → 目的地サーバ
- ISP側で最適なルートを選び、ユーザーは意識せずに最速の経路で通信できます。
つまり、ISPは企業に代わってルーティング負荷を背負い、最適な通信を提供するのが役割なんです!
インターネット接続の全体像
企業がインターネットに接続するときは、ざっくりこんな流れです:
- 企業内ネットワーク(AS内) → エッジルーター
- エッジルーター → ISPルーター(BGPでデフォルトルート受信)
- ISPルーター → 他のASやIX経由でインターネット全体に接続
これによって:
- 企業はシンプルなネットワーク設計が可能
- ISPがインターネット全体のルーティングと接続を代行
- 運用コストと設備投資を劇的に削減