
【9秒チャレンジ】
MPLS(Multi-Protocol Label Switching)は、IP アドレスではなく ラベル を使ってパケットを転送することで、より高速で柔軟なルーティングを実現する技術です。
通常の IP ルーティングでは、パケットごとに IP アドレスを確認 してルーティングテーブルを参照しますが、これには処理時間がかかります。さらに、IP ルーティングは 宛先ベース のため、トラフィック集中時の経路変更が難しいというデメリットがあります。
一方、MPLS ではパケットにラベルを付与し、ルーターは ラベルだけを参照 して転送します。これにより、ネクストホップベース のルーティングが可能になり、ネットワーク負荷に応じて最適な経路を選択できます。
MPLS は主に AS 内で使われますが、AS 間でも MP-BGP (Multiprotocol BGP) を使うことで、ルート情報と一緒にラベル情報も交換 し、エンドツーエンドのラベルスイッチングが可能になります。これにより、AS をまたいだ MPLS VPN の構築も容易になり、企業の拠点間通信やサービスプロバイダのネットワーク設計に大きな柔軟性を与えます。
- 問題文
- 解答&解説
- 設問 1:MPLS を使用した IP-VPN において、拠点間のデータ通信がどのように MPLS ラベルを用いて転送されるかを説明せよ。
- 設問 2:MPLS L3VPN における「VRF (Virtual Routing and Forwarding)」の役割を 具体的な例を挙げて説明せよ。
- 設問 3:通信事業者は、トラフィックエンジニアリング (TE) を実現するために、MPLS-TE を導入している。MPLS-TE の仕組みと、A 社がビデオ会議の遅延を抑えるために MPLS-TE を活用する方法について説明せよ。
- 設問 4:新しい拠点 CE3 を追加する場合、A 社の既存拠点の設定変更を最小限にするために、BGP のどの機能を活用すればよいか。また、その機能がどのように拠点追加時の運用負担を軽減するか説明せよ。
- まとめ
問題文
ある企業 A 社は、国内の複数拠点を接続するために、通信事業者が提供する IP-VPN サービスを利用している。この IP-VPN サービスは、MPLS (Multiprotocol Label Switching) を用いた閉域ネットワークで構成されている。これにより、インターネットを経由せずに安全かつ効率的な拠点間通信が可能となっている。
A 社は次のような要件を満たすネットワークを構築したいと考えている:
- 拠点ごとに異なる IP セグメントを使用する。
- 優先度の高い通信(例えば、ビデオ会議)は低遅延で安定した通信経路を確保する。
- 新しい拠点が追加されても、既存の拠点の設定変更を最小限に抑えたい。
IP-VPN サービスは、MPLS による L3VPN (Layer 3 VPN) を用いて提供されており、各拠点には CE (Customer Edge) ルータが設置されている。通信事業者側のネットワークには PE (Provider Edge) ルータが存在し、MPLS ラベルを用いてパケット転送を行っている。
以下の図は、A 社の拠点間接続の概要を示している。
CE1 ---- PE1 ---- P ---- PE2 ---- CE2
ここで、
- CE1, CE2:A 社の拠点ルータ
- PE1, PE2:通信事業者のエッジルータ
- P:通信事業者内部のコアルータ
A 社は、通信品質向上のため、トラフィックエンジニアリング (TE) を活用し、特定の拠点間通信を最適化したいと考えている。また、各拠点間の IP アドレス管理を簡素化するため、BGP (Border Gateway Protocol) を用いたルート制御を導入している。
設問 1
MPLS を使用した IP-VPN において、拠点間のデータ通信がどのように MPLS ラベルを用いて転送されるかを説明せよ。
設問 2
MPLS L3VPN における「VRF (Virtual Routing and Forwarding)」の役割を 具体的な例を挙げて説明せよ。
設問 3
通信事業者は、トラフィックエンジニアリング (TE) を実現するために、MPLS-TE を導入している。MPLS-TE の仕組みと、A 社がビデオ会議の遅延を抑えるために MPLS-TE を活用する方法について説明せよ。
設問 4
新しい拠点 CE3 を追加する場合、A 社の既存拠点の設定変更を最小限にするために、BGP のどの機能を活用すればよいか。また、その機能がどのように拠点追加時の運用負担を軽減するか説明せよ。
解答&解説
設問 1:MPLS を使用した IP-VPN において、拠点間のデータ通信がどのように MPLS ラベルを用いて転送されるかを説明せよ。
解答:
MPLS を使用した IP-VPN では、通信事業者のネットワーク内でパケットに MPLS ラベルを付与して転送する。以下の流れで通信が行われる。
1.ラベルの付与 (Push)
CE1 から PE1 に送信された IP パケットは、PE1 で BGP ルーティング情報に基づき VRF を参照し、対応する MPLS ラベルを付与する。

VRF (Virtual Routing and Forwarding) とは、ルーター内に複数の独立したルーティングテーブルを作成する技術。
2.ラベルスイッチング
PE1 から P ルータへの転送時、MPLS ラベルに基づいてパケットを転送する。コアルータ (P ルータ) は IP アドレスではなくラベルを見て転送するため、高速な転送処理が可能。
3.ラベルの入れ替え (Swap)
中継する P ルータでは、受信したラベルを次のホップ用ラベルに置き換えて転送する。
4.ラベルの削除 (Pop)
最終的に PE2 に到達すると、PE2 はラベルを外し (ラベルポッピング)、元の IP パケットを CE2 に転送する。
この仕組みにより、拠点間の通信は事業者ネットワーク内でラベルにより効率的かつ閉域的に行われる。

MPLSとは、そもそも何かというと….MPLSとはIP アドレスではなくラベルを使ってパケットを転送する技術です。これにより、ルータは IP ルーティングテーブルを毎回検索する必要がなく、処理が高速化します。また、ラベルを工夫して使うことで、トラフィックの負荷分散や仮想ネットワークの分離など、柔軟なネットワーク設計ができるのも特徴です。
設問 2:MPLS L3VPN における「VRF (Virtual Routing and Forwarding)」の役割を 具体的な例を挙げて説明せよ。
解答:
VRF は、ルータ内に複数の独立したルーティングテーブルを作成し、異なる VPN を分離して管理する仕組み。例えば、A 社と B 社が同じ通信事業者の IP-VPN を利用していても、それぞれの拠点は VRF により論理的に分離される。
- 具体例:
- A 社の拠点: 192.168.1.0/24
- B 社の拠点: 192.168.1.0/24 (同じアドレス範囲でも VRF で独立)
PE ルータは VRF を参照して、宛先に対応する MPLS ラベルを付与し、各社のトラフィックが混在しないよう制御する。この仕組みで、プライベートアドレス空間を利用しつつ、安全な通信を実現できる。

MPLSは1台のルータ内に複数のルーティングテーブルを持つことができます。つまり、同じIPアドレスを使ってもルーティングテーブルが違うから、それらは別物として振る舞うことができるよねっていうことです。
設問 3:通信事業者は、トラフィックエンジニアリング (TE) を実現するために、MPLS-TE を導入している。MPLS-TE の仕組みと、A 社がビデオ会議の遅延を抑えるために MPLS-TE を活用する方法について説明せよ。
解答:
MPLS-TE は、特定の通信経路に帯域制御や優先制御を適用し、最適な経路選択を行う技術。拠点間のビデオ会議トラフィックを安定させるには、以下の手順を踏む。
- 帯域予約
特定の MPLS ラベルスイッチパス (LSP) に帯域を予約し、ビデオ会議など遅延に敏感なトラフィックを優先させる。 - リンク状態の考慮
RSVP-TE (Resource Reservation Protocol) を使用して、ネットワークのリンク状態や遅延を考慮した最適経路を構築する。 - 柔軟な経路制御
通常の IP ルーティングでは最短パスのみ選択されるが、MPLS-TE により回線負荷が低い経路を選択することで、混雑による遅延を回避できる。
このように、MPLS-TE を活用すれば、ビデオ会議などの重要なトラフィックの安定性と品質を確保できる。

トラフィックエンジニアリング (Traffic Engineering, TE) は、ネットワークのトラフィックを最適に制御・分散させて、効率的に通信できるようにする技術や手法 のことです。
通常のルーティングプロトコル (OSPF, BGP など) は、最短パス を選ぶことが多いです。ところが、ネットワークには帯域のムダ遣い、ボトルネック、障害発生時の冗長性不足などの問題があり、それらの問題に効率的に対処するルーティング方法がTEという訳です。
設問 4:新しい拠点 CE3 を追加する場合、A 社の既存拠点の設定変更を最小限にするために、BGP のどの機能を活用すればよいか。また、その機能がどのように拠点追加時の運用負担を軽減するか説明せよ。
解答:
拠点追加時の設定変更を最小限に抑えるには、BGP の Route Reflector (RR) や Route Target (RT) を活用する。
1.Route Reflector (RR)
PE ルータの一部を RR に指定し、各拠点 (CE ルータ) から受信した経路情報を他の拠点に自動的に広報する。これにより、新拠点 CE3 を追加しても、既存の CE1, CE2 へのルータ設定変更は不要になる。

RRはBGPにおける中央ハブ。通常、BGPはフルメッシュ接続なので、1第1台が直接リンクする必要がある。しかし、それだとスケールの障壁となる。そこで、中央的なRRを用いることで、他のルータはRRとBGP セッションを張るだけですべてのルータと接続できるようになる。
2.Route Target (RT)
RT を使って、特定の VPN に関するルーティング情報を識別し、各拠点が受信すべきルートを制御する。例えば、新拠点 CE3 に RT を設定するだけで、必要なルートが自動的に広告される。

RTとはどのVRFにルートを入れるかを決めるタグ。1つのルータには複数のVRFがある。なので、どのテーブルに記載するかを指定する必要がある。そのときに使うタグがRT。
このように、BGP の動的経路制御機能を使うことで、新拠点追加時の手作業を大幅に減らせる。
まとめ
MPLS を使った IP-VPN は、ラベルスイッチングにより高速かつ閉域的な通信を実現します。VRF によりネットワークを論理分離しつつ、MPLS-TE で重要なトラフィックの品質を最適化でき、BGP を使えば拠点追加時の運用負担も軽減できます。